2011年に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から満11年にあたり、被災地で活動する団体と全国で保養などの受け入れ活動を行う団体をネットワークする「311受入全国協議会」からの<3.11メッセージ>です。
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〈3.11〉から 12 年目を迎えて
2011 年に始まった東日本大震災は、いまなお収束することのない原発事故と広大で深刻 な放射能汚染によるさまざまな被害を抱えたまま、この 2022 年 3 月 11 日に 12 年目を迎 えます。
福島県やその近隣諸県の被災汚染地域からの避難者の不安定な生活と、そうした被災汚 染地域に暮らしつつ被曝被害の心配を抱えた生活は、ともに現在も続いていますが、10 年 目の節目を超えたことによる報道の減少と、新型コロナウィルスの流行による苦境とが相 まって、原発事故の被災被害に対する社会的関心は著しく低下していることを痛感してい ます。保養活動などを支える寄付が集まりにくくなる一方で、そもそもコロナ感染予防のた めに保養企画の大半が中止に追い込まれています。そのことが、原発事故被災者をますます 孤立させることになるのではないかと強く懸念します。
他方で、311 受入全国協議会(通称:うけいれ全国)およびその加盟団体では、支援を続け てくださる貴重な寄付団体の助けも借りて、可能なかぎりの保養活動の維持を試みてきま した。家族単位での保養や、比較的近距離での保養など、感染防止と両立した企画を模索し たり、またオンラインで保養団体とこれまでの参加者との交流会を開催したりすることに 尽力しました。またこれらの企画への反応から、まだ原発事故が終わっていないこと、全国 の保養の火は消えていないことを受けとめ、そのことも広くアピールしてきました。
被災者の心労をねぎらうとともに、保養団体および寄付団体のみなさまの努力に深く感 謝いたします。
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こうした 12 年目の〈3.11〉が近づきつつあるこの2月末に、ロシアによるウクライナ侵
攻という、世界を震撼させるニュースが駆け巡りました。この侵攻による犠牲者を哀悼しつ つ、一刻も早くロシアがウクライナから撤退し停戦することを願っています。
この侵攻からまもなく、私たち自身の〈3.11〉の経験に照らして無視できないものとして、 三つの出来事が発生しています。一つめは、ウクライナにあるチェルノブイリ原発をロシア 軍が占領したことです。チェルノブイリ原発はウクライナがソ連領だった 1986 年に深刻な 爆発とメルトダウンの事故を引き起こし、隣接するベラルーシやロシアをはじめ広大な地 域を放射能で汚染しました。大規模な健康被害と避難移住と保養活動があったことや、事故 原発が廃炉にできず石棺として封鎖されることとなったことなど、東京電力福島第一原発 のメルトダウン事故の際に常に引き合いに出され参照されてきました。そのチェルノブイ リ原発を管理している作業員がロシア軍の占領下で不自由を強いられ、事故原発からの放 射線量にも急上昇が見られるとも報じられています。チェルノブイリ原発事故も 36 年経っ てもまだ終わってはいないのです。12 年目の私たちは、まだまだこの先、数十年も不安が 続くことを感じさせられました。
二つ目は、交戦中にウクライナのザポロジエ原発に対してロシア軍が砲撃し火災が発生 したことです。原子炉そのものに着弾しなくとも、冷却システムに損傷があればメルトダウ ンには十分になりうること、そしてそのもたらす影響の範囲はミサイルの比ではないこと を私たちは身をもって知っています。原発は、存在し稼働しているだけで、潜在的に社会に 対し壊滅的なリスクを持っているということを、この砲撃の一件であらためて確認させら れました。私たちの直接的な活動目的は脱原発ではありませんが、日本全国にある原発がつ ねに東電福一原発の事故と同様の被害を引き起こしうること、うけいれ全国の活動は将来 の潜在的な事故に対する取り組みにもつながっていることを、忘れないようにしたいと思 います。
第三に、戦禍から逃れるための避難⺠が 200 万人以上ウクライナから近隣ヨーロッパ諸 国に流入していることです。そして流入先の各地では、避難者を迎え入れるために多くの市 ⺠が自宅の一室を開放しており、実際に避難家族の規模に応じて受け入れが進んでいます。 その光景は、やはり私たちの 2011 年の〈3.11〉の経験を彷彿とさせました。あのとき、次 から次へと原発事故被災地の周辺から避難者が発生し、北海道から沖縄まで離散しました (強制避難と自主避難とを合わせて推計で数十万人に達する)。そして各地では、政府や東 電ではなく、一般市⺠や市⺠団体・NGO がそうした避難者の受け入れを自発的に進めてい たのでした。うけいれ全国の組織化の出発点も、この自発的な受け入れの市⺠活動にあると 言えます。政府・東電の責任を追及することも必要ですが、目の前にいる避難者を迅速に受 け入れるには、「市⺠」の力こそが圧倒的に大切です。次々と到着するウクライナ難⺠を受 け入れていく一般市⺠の姿を報道で見て、うけいれ全国の活動の原点と「市⺠」の力の大切 さを再確認させられました。
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原発事故からの 11 年の時間経過と、コロナや戦争などの不穏な要因とで、被災者も受け
入れ団体もますます厳しい状況になってきています。そうだからこそ、私たちのネットワー クは重要性を持っています。孤立し疲弊していくことを防ぐために、緩やかにでも繋がって いき、励まし合い、情報を共有し、また再会できる希望を持ち続けたいと思います。
2022 年 3 月 11 日
311 受入全国協議会・共同代表 みかみめぐる 佐藤洋 早尾貴紀 谷瀬未紀